因果関係と相関関係をどう区別するか?

進化しすぎた脳におもしろい話が載っています。

1999年のNatureに衝撃的な論文が掲載されたそうです。

この論文の結論は、「夜、常夜灯を点けながら乳幼児を寝かせると、その子は近視になる」というものだそうです。



ところが、その後反論の記事が相次いで出たそうです。

曰く、近視の原因は遺伝ではないか。近視の親は、自分の子どもがよく見えるように常夜灯を点ける傾向がある。そういう親の子どもは、遺伝で近視が多かったに過ぎないのではないか。という主張です。



因果関係を証明するには3つの条件があると言われます。

知的複眼思考法―誰でも持っている創造力のスイッチ p202

1、原因は結果よりも時間的に先行していなければならない(原因の時間的先行)。
2、原因と見なされている現象も、結果と見なされている現象も、ともに変化しているのが確認できている(共変関係)。
3、原因以外に重要と思われる他の要因が影響していない(他の条件の同一性)。

前述の「子どもが近視になる」問題では、3の「親が近視」という第三の要因の影響が見落とされていたことになります。


しかしなお、さらに他の要因X(たとえば「未知のウイルス」とする)があって、このウイルスへの感染が「親が近視」と「子どもが近視になる」の共通の原因になっている可能性も排除できません。


ちなみに「未知のウイルス」というのは悪い例で、「未知」なので反証不可能だから、こういう「未知のウイルスが近視の原因だ」みたいな説を、疑似科学と言うのだと思います。



因果関係を示していくというのは、あらゆる対立仮説を立て、それを一つずつ検証して「この要因は影響がない」と棄却していく(反証していく)しかない、ということになるのです。このような科学の進め方を、"Strong inference"と呼ぶそうです。


生態学の哲学的基礎

Strong inference の手順は、
1)仮説の考案、2)その仮説を排除するための実験の計画、3)実験による検証、4)1-3 をくりかえして、残された可能性を検証する、という4 段階である。この方針のもとに、研究者は常に「どのような実験が自分の仮説を反証するか」「自分の実験はどのような仮説を反証したか」を考え、問題は何かを明確にし、すべての対立仮説を反証するためにきびしい実験を考案しなければならない。


そのために、実際に実験をする際には「コントロール(対照実験)を取る」ということが重要です。コントロールとは、原因と見なした要因だけが異なり、他の要因の条件をなるべく揃えた比較対照群を用意する、ということです。

前述の例で言えば、近視の親の子どもを集め、常夜灯を点けながら育てた子どもと、点けずに育てた子どもを、他はまったく同じ条件で育てて(現実には不可能)、視力を比較する、ということになります。その結果に差がなければ、「夜、常夜灯を点けながら乳幼児を寝かせると、その子は近視になる」という仮説は棄却されます。

一方、親が近視の子どもと、親が近視でない子どもを比べて、子どもの視力に差があれば、とりあえず「近視の原因は遺伝」という仮説は棄却されずに残ることになります。


「再現性をとる」ということも、ある結果が、何らかの気がついていない要因が働いて得られた可能性を排除していく、ということだと考えられます。

近視の親の子どもで、かつ、まったく同じ条件で育てたつもりでも、長男が近視になり、次男が近視にならなかったら、「近視の原因は遺伝」という仮説は棄却され、「何か違う第三の要因があるな」と気がつくわけです。

一方、長男も次男も近視になれば、「近視の原因は遺伝」という仮説は棄却されずに残ります。



と、ここまで「子どもの近視の原因」を例にしてきましたが、もちろん「子どもの近視の原因」は単純に一つではなくて、遺伝と、いくつもの環境要因が複合した結果だと考えられます。

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なぜおもしろいかと言うと、コントロールを取るというような統制された実験が不可能な社会科学でも、たくさんの変数を持つ膨大なデータセットから統計手法を用いることで、変数間の相関の度合いを明らかにして仮説を棄却していくことができる。

そして、意外なデータの間に意外な相関を見つけて、直感では思いつかないような新しい仮設を立てることができる(「犯罪激減の理由は中絶が合法化されたから」というような)、ということを紹介しているからだと思います。



参考:
“Strong Inference”について
生態学の哲学的基礎
進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス) 哲学的な何か、あと科学とか 知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫) その数学が戦略を決める ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する