生物のお勧めの教科書
生物に興味があるという何人かの人に”お勧めの教科書”を聞かれたのでメモ。
お勧めは、分子生物学講義中継〈Part1〉
分子生物学講義中継〈Part1〉―教科書だけじゃ足りない絶対必要な生物学的背景から最新の分子生物学まで楽しく学べる名物講義
- 作者: 井出利憲
- 出版社/メーカー: 羊土社
- 発売日: 2002/05/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 23回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
最初に系統分類と分子進化学から見た進化について書いてあるのがいいと思います。中高の生物で、退屈な分類と覚えることしかない代謝経路に嫌気がさして生物が嫌いになった人にこそぜひ読んでほしいです。分かっている事実の単純な羅列をなるべく避けて、生物学的な意義とか進化的な観点で書かれているので、読み物としておもしろいです。
この巻では、(大学でもあまり教えられることがなくなっている)代謝は出てこないのでご安心を(笑)
就職するに当たって、教科書的な生物の本の中で唯一手放さないで持ってきたのもこの本です。
この本は、何冊も続編が出ていて、どれも悪い本ではないと思うけど、このPart1のクオリティーは圧倒的です。
The Cellは買わなくていいと思う。生物系の大学院の入試を受けるとしても、Essentialを買えばいいのでは?
Molecular Biology of the Cell 5E
- 作者: Bruce Alberts,Alexander Johnson,Julian Lewis,Martin Raff,Keith Roberts,Peter Walter
- 出版社/メーカー: Garland Science
- 発売日: 2008/01/02
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 1人 クリック: 42回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
分子生物学の世界で圧倒的菜に標準となっている教科書といえば、通称"The Cell"と呼ばれるこの本です。この本は英語版が1万円なのに、日本語版が2万円します。。そして最新の第5版は発売から1年以上経つのに未だに日本語版が出ていないと思う。
この本を輪読しよう!という人は必ず出てくるのですが、個人的にはこれは必要に迫られるまで買わなくいいと思います。おれはごくまれに普段接しない分野のことを調べるときに辞書的に見るだけだったし(そして専門の分野に関して辞書的に使うには内容が浅すぎる)、生物系の研究室に所属すれば絶対誰かが持っていて借り放題(笑)
ただし、The Cellはもちろんいい教科書で、なにより図がめちゃくちゃ多くてカラーなのがいい。生物はイメージできることがすごく大切なのに、和書ではこういう教科書はまずないので、『分子生物学講義中継』以外の和書の生物の教科書は買わないほうがいいと思う。
というわけで、『分子生物学講義中継』を読んで、さらに生物系の大学院の院試を受けるというなら、通称"Essential"と呼ばれるこの本を買うことをお勧めします。
- 作者: Bruce Alberts,Dennis Bray,Karen Hopkin,Alexander Johnson,Julian Lewis,Martin Raff,Keith Roberts,Peter Walter,中村桂子,松原謙一
- 出版社/メーカー: 南江堂
- 発売日: 2005/09/09
- メディア: 大型本
- 購入: 2人 クリック: 364回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
この本はThe Cellの一部の章についてのエッセンスのみが載っている本ですが、同じく図が多くてカラーです。少なくともおれが所属していた大学院に関しては、院試説明会でも「この本をしっかり勉強していれば十分」といわれました。
でもEssentialよりも
個人的には、学問としての生物学の魅力の大きな要素の一つは、「積み重ねでない」というところにあると思っています。
数学や物理に比べると、分子生物学というのは誕生してからの時間が圧倒的に短いです。ワトソンとクリックがDNAの二重らせんを発見したのが1953年だそうなので、せいぜい55年です。さらに、一度は「事実」とされたことがどんどんひっくり返されている段階なので(DNA→RNA→たんぱく質という”セントラルドグマ(分子生物学の中心原理)”すらも、もう例外だらけ)、積み重ねるべき内容があまりありません。
大学1年の講義でも、いきなり最先端のことを紹介してイメージできるのは、生物学の大きな魅力だと思います。
だからこそ基礎に関しては『分子生物学講義中継』を読んで全体像だけ掴んで、あとは必要になったときに学べばいいのではないかと個人的には考えます。
基礎を積み重ねるよりは、ブルーバックスだとか日経サイエンスなんかを読んで各分野のおもしろさを見つけていくほうがはるかにいいと思います。
実験手法を学ぶのはたのしいと思う
そして論文を読むようになったりしてもなお、基礎を一通り学ぶということに意義があるのかは疑問です。それよりは、各種実験法の背景と原理、それからどれくらいの精度なのかということについて学ぶほうが意義があると、個人的には思います。
生物学の楽しさのもう一つの大きな要素は、実験の多くが生物が本来持つ仕組みを応用したものである、という点だと思います。
例えば、DNAの配列を読むのには、まずPCRという手法でDNAを増幅しますが、これは細胞内でDNAを複製する酵素を実にうまく利用することで行われています。
それから生物は複雑系なので、ゼロイチではっきりした結果が出ることはまずありません。論文を読んでもその実験でその主張が本当に言えるのか、というのを判断しなければなりません。
そんなわけで、各種実験法の歴史と原理(生化学的なものも含めて)と実際について、最新のものまでカバーした本があればぜひ読みたいのですが、勉強熱心でなかったのであいにくおれはそういう本を知りません。バイオ実験イラストレイテッドシリーズはすごくいいけど、90年代の本なのでさすがに最近の手法が載っていない。知っている方がいらっしゃったらぜひ教えてください。
実験原理に詳しくなればなるほど、生物の各分野とか生化学の知識が必要になってくるので、必然的に基礎的な知識を学んでいくことになります。
たとえば、おれは抗体染色をしまくってたけど免疫学の知識が皆無なので、教授とかに細かいことを突っ込まれるとさっぱり答えられません。。みたいなことで、はじめて免疫を勉強してみたりするのです。
英語と統計
そして、生物の基礎を学ぶよりは、少しでもストレスが少なく英語の論文を読めるようになることに時間を使おう!という平凡な結論に落ち着きます。日経サイエンスを読む感じで、NatureとかScienceとかCellを読めたらどんなに楽しいだろうかと思います。
そして自分で実験するようになると、統計をどれだけ使いこなせるかで大きな差がつきます。
生物をやっている人は一般的に、というか自分がなのですが、統計と情報処理にあまりに弱すぎる。。
というわけで
結局、『分子生物学講義中継』以外に具体的に本を挙げられていないのがあまりに残念な感じですが、とにかく基礎は置いといていいから、生物のおもしろさにわくわくし、全体像を掴むのが先決だと思う!という話でした。