2010年、印象に残った本10冊

今年は本を読んだら一言でもいいので感想を必ずtwitterに書くようにしてみた。

「『○○』を読んだ」という形でtweetして、twitterの自分のつぶやきを全部ローカルに取っているので、そこから正規表現で抜き出したのを基にまとめました。

2008年
2009年


以下、順不同(今年読んだ本で、今年出た本ではありません)。

使える!経済学の考え方―みんなをより幸せにするための論理


おれが好きな本はだいたいまえがきを読んでわくわくするんだけど、その代表例が小島寛之さんの本です。

本書は、「よい社会とはどういう社会なのか」について論じる本です。

(中略)

この本でみなさんに提案しているのは、「無条件で何かを信じる」のではなく、「どんな条件のもとでならそれが正当化されるか」、そういうふうに考えましょう、ということです。

(中略)

前もって言ってしまうなら、本書を読んでも、冒頭の問いへの結論は何も得られません。本書でお約束できるのは、どんな前提のもとでなら、この問題へ私たちの抱く素朴な解答(冒頭の解答)がなりたちうるのか、それへの答えを与えることだけです。しかし、それがかけがえもなく貴重な解答であることを、読後にみなさんがずっしりと受け止めてくださることを、著者として祈ります。


経済学というのはホモ・エコノミクスという近似のもとで現実的な問題を解くものだと思い込んでいたけど、この本を読んで「よい社会とは何か」という問いに対して感じる素朴な感覚を数理的な枠組みに取り込むことに挑み続けている経済学者たちを知った。

そしてはじめて著者の思いが開放される終章は圧巻!

『これからの「正義」の話をしよう』でも紹介されている人が出てくるので、合わせて読んだのも楽しかったです。

これからの「正義」の話をしよう

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学


様々な政治哲学者たちの思想を紹介する本はたくさんある中で、おれがこの本をおもしろく読めたのは、思考実験や現実の問題に対して、功利主義の立場だとこう考えられて、リベラリズムの立場だとこう考えられて、共同体主義の立場だとこうなるけど、どれがあなたの感覚に合いますか?というスタンスだったからだと思う。

そして著者は、妊娠中絶・胚性幹細胞研究・同性婚の事例を挙げて、正義や公正さと美徳は分離不能で、道徳判断から中立にはなりえない、とリベラリズムを批判して、共同体主義を説いている(個人的には共同体主義には共感できなかったけど)。

高校の倫理の授業をこの本に置き換えてほしい!と思う。

自由はどこまで可能か―リバタリアニズム入門

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)

自由はどこまで可能か=リバタリアニズム入門 (講談社現代新書)


功利主義的な「生存くじ」へどう反論するか、をはじめとする思考実験を紹介しながら、リバタリアンの理屈を掘り下げている。

強調されていると感じたのは、リバタリアニズムは共同体を否定していないこと。自発的な加入と脱退が可能であることを前提として(それが難しいため国家の機能は最小であることを求める)、むしろ共同体の自治を肯定している。

たとえば結婚や家族を持つことを否定しているのではなくて、それを法制化して優遇することを否定している。「友情や恋愛が法律によって規定されていないからといって、友人や恋人を作れないということにはならない」

東京都青少年健全育成条例改正案 - あいうえおかの日記

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義

  • 作者: ティナ・シーリグ,Tina Seelig,高遠裕子
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2010/03/10
  • メディア: ハードカバー
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「光り輝くチャンスを逃すな」ってのは素晴らしい言葉だと思う。不確実なことはすばらしいことで、自分の役割を静的に定義することはばかげていて、いつだって自分に許可を与えていいんだよ、という一貫したメッセージ。

大きな人生の目的を決めて、そこに向けてブレークダウンした目標を立てて、それを達成するためのアクションプランを立てて、ってそんな風に暮らしていかなくたっていい。判断に迷ったときは、将来そのときのことをどう話したいのかを考えて、将来胸を張って話せるように、いま物語を紡げばいい。

この本は2時間くらいで読めるし、自己啓発系の本の中では『ウェブ時代をゆく』『最後の授業 - ぼくの命があるうちに』以来で好きで、人に薦めたくなる1冊でした。

ブラスト公論―誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない


「TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフルタマフル)」の原点的な、雑誌での2000〜2004年の座談会連載をまとめた本。

数々のたとえ話で執拗に語られる「モテ(=自意識との葛藤)」の話は、まさに我が意を得たりで、この本を学生時代に読んでいたら、学生時代に話していたことの半分くらいがなくなってしまったんではないかと思う。

人前で泣くということ=人前でヌくということ(泣けると評判の映画⇒ヌけると評判の映画)

「私バカだから……」っていうのは、「難しい話をなさって……童貞どもが!」みたいな感じでしょ?

そして「3枚のカード」(自分の持っている最強の条件(客観的事実)を3枚カードに書いてお見合いパーティーに参加するとしたら…。3枚の組み合わせで考える)がめちゃくちゃおもしろい。みんなで定期的にやりたい!

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」


圧倒的に生産性の高い人(サイエンティスト)の研究スタイル - ニューロサイエンスとマーケティングの間 - Being between Neuroscience and Marketing

を元ネタに書かれた本。

いわゆるビジネス書として明快で実践的な本だと思うし、それに加えて学生時代の思い出を重ねあわせながら読んだ幸せな読書体験でした。

それが今自分が解くべき問題なのか - あいうえおかの日記

ニーチェ入門

ニーチェ入門 (ちくま新書)

ニーチェ入門 (ちくま新書)


平易な文章で書かれたニーチェの入門書。

キリスト教を否定した近代の理性は、宗教への信仰を禁欲主義的理想そのものに対する信仰に置き換えて従来の「善悪」「道徳」の根拠を捏造しなおしただけで、道徳の動機を問うておらずキリスト教を何も乗り越えていない、というのはなるほど!と思った。

『これがニーチェだ(永井 均)』と『ニーチェ入門』を順に読んでいって、最後の「「力」の思想」の、「欲望=身体」が物事を認識するとして相対主義ニーチェの思想の違いを浮き彫りにするところは、読んでいてカタルシスを感じた。

ロボットとは何か――人の心を映す鏡

ロボットとは何か――人の心を映す鏡  (講談社現代新書)

ロボットとは何か――人の心を映す鏡 (講談社現代新書)

人間型ロボット(ジェミノイド)を研究している石黒浩教授が書かれた新書。今年は京大で開催された「超交流会2010」に石黒先生の講演を聴きいったりもした。

著者自身のジェミノイドをはじめ今まで作ってきたジェミノイドと、そのなかで示唆されてきた「人間とは何か」ということを考えるヒントについての本。

先にまずロボットやアンドロイドをつくってみて、それが非常に人間らしい動きを持てば、そこから人間を知る、という「構成論的アプローチ」が紹介さている。

『脳はなぜ「心」を作ったのか』や『単純な脳、複雑な「私」』ととても相性のいい1冊。

エピローグで明かされる「悪用できない技術は偽物である」という著者の研究上の信念の話もかっこいい。

切りとれ、あの祈る手を---〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話


読むこと書くことに対して、それまでとはまったく違った景色を見せてくれた強烈な読書体験でした。

毎日必死になってtwitterのTLを追って、RSSを消化して、みたいなことは決して「情報強者」ではないよね。

「「すべて」について、ちょっとは気の利いた一言を差し挟むことができる技術」 - あいうえおかの日記

13日間で「名文」を書けるようになる方法

13日間で「名文」を書けるようになる方法

13日間で「名文」を書けるようになる方法


改めて読み返してみて『切りとれ、あの祈る手を』と通じるところがあるな、と思った。

明治学院大学での講義がまとめられた1冊。

添削が書かれていたり、「名文」を書くための実践的なテクニックが書かれている本でもない。

先生(高橋源一郎)の好きな文章を読んだり、個人的な経験を聞いたり、ラブレターを書いてみよう、とか、日本国憲法前文を書いてみよう、とか、演説の草稿を書いてみよう、とか。

読み、感じ、書くということに対して、どこまでも前向きで愛おしい気持ちにさせてくれた。

わたしは、あなたたちに、おおいにとまどってほしかったのです。というか、「文章」をうまく書くようになるのとは正反対の方向へ、なにも書けなくなるとか、なにを書いたらいいのか、なんのために書いているのか、わからなくなるとか、そうなってほしかったのです。