「新婚旅行でタチヒに行く」と言っては奥さんにタヒチ!ってつっこまれていた

大学1年の夏に自転車で若狭湾まで行った。

おれが海に行きたい海に行きたいと言い張ったんだけど、山中越えを自転車で一気に越えて琵琶湖に着いた瞬間に、おれは泳げないことを思い出した。

琵琶湖で野宿して、ファミレスで晩飯を食った。店員のお姉さんがかわいくて(もちろんほんとにかわいかったのかは定かではない)、店を出た後にそのお姉さんがおれらの手を振ってくれて、それを誰に向かって手を振ったのか言い争った。

当時はまだiPodなんてものを持っていなくて、各自のMDプレイヤーと百均で買ってきたへなちょこのスピーカーをベンチに置いてゴイステをかけながら、もてない話をしていた。

若狭湾についたら、あんなところにお目当てのかわいい水着ギャルなんていなくて、水着のかわいい子どもたちに遊んでもらって、飛び込み台から突き落とされて、また来年も来ていいぞ!って言ってもらった。


その冬にいつものように友達の家で3人で飲んでいると、友達が「サークルでおれのことを好きな子がいるっぽい」的な自惚れ話をしだして、それから、おれが知る限りあまりに自然に2人の間に5年半が流れた。

おれらの間には、大学に行ってはそいつの隣に陣取って90分間爆睡する時期が過ぎて、ちょっと疎遠になったり、かと思ったらなんかやたらと一緒に飲んでいる時期がやってきたり。学部の卒業旅行やら、大学院の卒業式みたいなときには一緒に飲むのは決まってクラスの友人3人でだった。


その友達は、本当に真面目で誠実なやつで、だけどまぁ不器用なやつで、今でも微妙に鹿児島訛りが混じっている。

結婚式で新郎入場の瞬間に、友達の緊張しきったぎこちないロボット歩きに、親族が起点となって爆笑が起こっていた。

ああこいつはどこに行っても同じ感じでみんなに愛されているんだなというのが分かって、なにせ職場の上司とか大学の教授がスピーチで「みなさんよくご存知だと思いますけど、彼は」というたびに、みんな笑っていた。


絵に描いたような初々しくて穏やかな披露宴を見てとにかくうれしくなって、それから38.7°の朦朧とした頭では、おれが結婚したくない100の理由なんて全部忘れて、結婚っていいなーと初恋の中学生みたいなことを思った。