「今歩いているこの道が いつか懐かしくなるはずだ」

昨日は今所属しているプロジェクトのキックオフだった。


おれが就職活動をした年は、まだリーマンショック前でおれらは売り手市場と言われていた。

日本の企業はどこもサブプライム問題なんか屁でもないという顔をしていて、「何年連続増収増益で、今後の成長戦略は○○」みたいな話をしていた。そしてどこの会社も、若いうちから責任ある仕事を任せる、だとか、成長できる環境、だとか言っていた。


おれは大学院での生活と居酒屋でのアルバイトを比較して、何をするかではなく、どう働くかの方が自分にとって重要なことだと思った。

大企業に入って大きい仕事が粛々と進むのに参加するよりは、小さい会社で全体を見晴らせる場所で働きたいと思った。『ウェブ時代をゆく』で梅田さんが言う「大組織適応性」は持っている方ではないかと感じたけど、そうではない場所に自分をさらしてみたいと思った。

だけど、食品会社に全部落ちてそんなことを初めて真剣に考えた1月頃には、もうベンチャー外資の採用はほとんど終わっていて、結局大手の、だけど「一流」と呼ばれるような企業ではない企業になんとか内定をいただいた。


大きい企業で働くメリットの一つは、確立された仕事の進め方があって、それを短期間で学べることだと思う。どんな仕事をするかは転職すれば変えられるけど、仕事の進め方は新卒の新入社員がその会社のやり方を叩き込まれて、良くも悪くも最初に身につけた習慣に相当縛れると感じる。

他社の仕事の進め方は分からないから、おれが働いている会社より人月単価が高い企業は、思考の枠組み自体が違うのか、それとも単により抽象化されたものなのかは分からない。


この会社は今までのやり方じゃもうダメだってことはみんな分かっていて、だけど具体的にどんなスイッチを押したらいいか誰も分からなくて、目の前のことに必死で対処することしかできていないんだと思う。旧態依然としたやり方にしがみついている人なんて、おれは今のところ見たことがない。

そうやって今週、おれのごく身近なところで呆然とする出来事が起こった。それまで何となく対岸の火事だったことが、一気にリアリティーを持ってやってきた。


おれは入社してからずっと、こうなった以上は「何かの括りに関しては社内で2σに入っている」という状態になろう、と思っている。

より抽象化されたレイヤーに乗って高付加価値をつけるのではなく、『Joel on Software』で言うところの「漏れのある抽象化」を解決するプログラマーになりたい。ブラックボックスはろくなことがないから嫌いだ。

基盤部分を作ってより抽象化された環境を他のプロジェクトメンバーに提供する仕事をさせてもらっている。お客さんには会ったこともないし、多分世間で言う「責任ある仕事」とは程遠いものだと思うけど、おれは今の仕事が好きだ。

おれはこの場所で精一杯がんばって、自分の貢献なんてあってもなくてもいいからこのプロジェクトを絶対に成功させて、また机を並べるのを心待ちにしている。


現実は厳しいし、そうでなくても一人当たりで動かす金額が小さい業界にいるとどうしたって給料は安い。だけど自分が在りたいことで2σに入れば、どこにだってちゃんと充実した仕事があるってことを、少しだけ胸を張って言えるようになってきたと思う。


おれは今、もしかしたら学祭以来の情熱を持っているかもしれない。